セルフアートメイクが危険な5つの理由。落とせない・失明のリスクも【専門家監修】
アートメイク全般
アートメイク全般
病気や抗がん剤治療で脱毛した患者様の眉毛・まつ毛をあるように見せたり、乳がん手術後の患者様の乳首の再建手段としても使われる「メディカルアートメイク」。そんなメディカルアートメイクがどのように病後ケアに活用されれているか、患者様の声と共にお伝えします。
病気の治療中・治療後の患者様がQOL(※1)を向上して、日常生活をより良く過ごす――
その概念に少しずつ焦点が当てられるようになった昨今、『メディカルアートメイク(※2)』という手法が、患者様の日々の暮らしを向上させる手段として活用されていることをご存知でしょうか?
メディカルアートメイクは「メイク時間を短縮したい」「素顔でもきれいでいたい」といった、美容願望を叶える施術として知られています。しかし実は、メディカルアートメイクの活路は美容だけではありません。後天的な病気や抗がん剤治療がきっかけで脱毛した患者様の眉毛・まつ毛をあるように見せたり、乳がん手術後の患者様の乳首(乳輪・乳頭)の再建手段としても価値を発揮しています。
そこで今回は、メディカルアートメイクは具体的にどのように病後ケアに活用されているのか、施術された患者様からはどのような声が聞かれているのかなどを、Dクリニック東京 ウィメンズ(旧ウィメンズヘルスクリニック東京)の北村久美先生にお話を伺いました。
※1 QOLとは
Quality Of Lifeの略称。一人ひとりの人生の内容の質や、社会的に見た生活の質を指す。
※2 メディカルアートメイクとは
より自然な色に近づけることを重視し、2回~3回に分けて少しずつ施術していくアートメイク。主に眉やアイラインに行います。刺青(タトゥー)よりも皮膚の浅い位置に色を入れるため、永久に色素は残らず、徐々に退色していくという特徴があります。日本ではアートメイクは、医療機関で医師のもとで行われる行為と定められています。
―病後ケアとしてのメディカルアートメイクは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?
脱毛した眉毛をデザインしたり、まつ毛が生えているかのようにアイラインを引いたり、再建した人工の乳輪・乳頭に色を入れたりしています。病気になる前と同じとまではいきませんが、元の自然な姿に近づけるお手伝いをしています。
また病後だけではなく、治療前・治療中の患者様に施術をする機会もあります。昨今の抗がん剤治療は、入院をせずに通院で行われることも多いですよね。患者様は仕事をしたり、ウィッグをかぶったりして、日常生活を送りながら治療をしています。メディカルアートメイクは自然な眉毛やアイラインを作ることで、そういった方々の日々の暮らしをサポートしています。
―施術を受ける患者様は増えていますか?
そうですね、増えていると感じています。実は20年くらい前の医療現場には、「まずは病気の治療を中心にやりましょう」「病気を治すことが先決です」という風潮があり、外見に関するケアは後回しにされていました。
でも現在は、治療と同時に患者様のQOL向上が重要視されています。患者様の周囲や医師のQOLに対する理解度も格段に上がり、外見のケアに対する声掛けや気配りが増えたんです。そういった時代背景も手伝って、メディカルアートメイクを受ける患者様は増えています。
―日本に普及したのは、いつ頃なのでしょうか?
一般の方は知る機会があまりないかと思いますが、昔から抗がん剤治療後の乳房再建で乳輪を作るときは、メディカルアートメイクが使用されてきました。病後ケアとして施すアイブロウやアイラインも、ここ10~15年くらいで普及してきています。なので、病後ケアとしてのメディカルアートメイクはここ数年で急速に普及したものではなく、そもそも結構前から存在しているんですよ。
傷跡の修復やケアのためのアートメイクについてはこちらでも詳しくご紹介しております。
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―病後ケアでメディカルアートメイクをされる患者様に、特別にする施術はありますか?
病後ケア目的でも美容目的でも、施術の内容に変化はありません。ただ、病後ケアを目的とする患者様には「今後、手術の予定はありますか」「抗がん剤のクールはどのくらいですか」「主治医の先生に相談ましたか」「今日の体調はいかがですか」など、病状についてヒアリングして状況を確認します。
患者様はお悩みを感じているから、ご来院されます。私達はその気持ちを考えて、言葉一つひとつを丁寧に選び、患者様の心に寄り添う最大限の配慮をしています。看護師としてコミュニケーションを大切にし、患者様との信頼関係を築けるようにしています。
―施術後の患者様からはどういった声が聞かれますか?
喜んでいただけています!眉毛やまつ毛が無い自分のお顔を見ると、人はショックを受けたりネガティブな気持ちになったりします。これはとても自然な気持ちなんです。でもメディカルアートメイクをすると、自然な自分の顔に近づくことができます。「メイクを落として鏡を見たとき、眉毛があるのが本当に嬉しい」と喜んでくださる方がたくさんいらっしゃいます。また、眉毛が脱毛したことで「メイクのとき、どこから眉毛を描き始めたらいいかわからなくなった」と悩んでいた女性は、「メディカルアートメイクをしたおかげで、毎日のメイクがしやすくなった」とお話しされていました。
乳輪・乳頭のメディカルアートメイクも眉毛と同様に、「違和感」が無くなるのが嬉しいんですよね。お風呂上がりなどに、裸の自分の姿に違和感を抱かないでいられるって、とっても喜ばしいことなんです。
―病後ケアの場合、どのように眉毛の“濃さ”や“色“を決めるのでしょうか?
髪の毛の有無や、ウィッグをかぶっているか・かぶっていないかで調整しています。髪の毛が全部脱毛していない方やウィッグをかぶっている方は、地毛と同じくらいの眉毛の濃さ・太さをデザインします。髪がない状態で眉が濃いと違和感がありますが、地毛やウィッグがあれば自然に見えるんですよ。
一方、髪の毛が全て脱毛していて眉毛がない状態で、なおかつウィッグをかぶっていない方には、薄めの眉毛をデザインします。男性はウィッグをかぶらない方もいるので、薄めに色を入れるケースがよくあります。
―眉毛の“形”はどのように決めるのでしょうか?
お顔のバランスを見ながら眉毛の黄金比を説明して、「こんなバランスが最適ですよ」と直接顔に眉毛を描きながらご提案します。過去のお写真を見て参考にすることもありますが、過去の写真と現在では輪郭・目の大きさ・位置が少しずつ違います。だからたとえ同じ眉毛を描いても、過去と同じお顔にはならないんです。
それよりも今のお顔に直接眉毛を描いてベストなデザインをご提案したほうが、ご本人もイメージがわくし、仕上がりの満足度が高いと思っています。
―まつ毛が脱毛した方にアイラインを入れることで、どんな効果があるのでしょうか?
人間のお顔からまつ毛が無くなると、表情が薄く見えて、お人形みたいになるんです。でも、細くアイラインを入れてあげることでまつ毛が生えているように再現されて、目元に毛があるようなメリハリがつきます。まつ毛が脱毛していてもアイラインを入れるだけで、目元がはっきりし、印象が大きく変わるんですよ。アイラインのメディカルアートメイクは、全身脱毛症や抗がん剤による脱毛でまつ毛を失くした方にとても喜ばれています。
―乳輪・乳頭再建のためのメディカルアートメイクでは、どういった施術をするのでしょうか?
人工の乳輪・乳頭に、色を入れる施術をします。今は乳房へのインプラントが保険適用になっています。そのため、乳房を切除した後に乳房再建する人がかなり増えたそうです。乳房再建の際に、乳首の再建も望まれる方には、おなかなどの皮膚をとって乳頭を作ることもできます。
でもその乳頭、そして乳頭周りの乳輪=乳首全体には色がないんです。そこで乳輪・乳頭の色を、メディカルアートメイクで入れていきます。色は反対側の乳輪・乳頭があれば、それと似た色を作っています。
―色を入れるときに痛みはありますか?
塗る麻酔を使っているので、痛みはほとんどないと思います。今は、塗る麻酔がすごくよくなっているんです。なお、当院にもメニューにはありますが、施術の機会は多くはありません。なぜなら乳輪・乳頭へのメディカルアートメイクは、乳房再建の手術をした先生に紹介された場所で受ける患者様が多いからです。
大切な施術なので信頼関係のある先生のところで受けるのが一番ですし、「無理に当院に足を運ぶ必要性はない」と私は思っています。
―病気の治療中でもメディカルアートメイクはできるのでしょうか?
当院では、病気の治療中の方にも施術を行っています。治療に支障がないのであれば、施術した方が患者様のためになると思っています。でも抗がん剤治療中などには施術しないクリニックもあるようです。また病状によってはできない可能性もあります。気になる方は、まずは主治医の先生に聞いてみていただければと思います。
―病気の治療が始まる前にメディカルアートメイクをされる方もいますか?
はい、治療を始める前に来る方もいらっしゃいます。「これから抗がん剤治療が始まるから、髪や眉毛・まつ毛があるうちにある程度やってほしい」というような感じで。自眉が抜ける前にメディカルアートメイクをしておくと、抗がん剤治療で眉毛が脱毛しても、印象があまり変わらないんです。
―メディカルアートメイクをしていても、MRIは受けられるのでしょうか?
この質問をされる患者様は多くいらっしゃいます。私達の回答としては「メディカルアートメイクの施術を受ける医療機関・クリニックで、MRIをしても大丈夫かどうかを確認すると良いでしょう」になります。
確かにアイメーク用品に含まれることのある酸化鉄は、MRIに影響を及ぼす可能性があると言われています。しかしここ10~15年あまりの間、日本には酸化鉄の含有量が少ないメディカルアートメイク用の色素が出回っています。ですので、気になる方は施術を受ける予定の医院の担当者に聞いてみてください。
ただし、過去に海外でアートメイクをした経験のある方は注意が必要です。日本では、メディカルアートメイクは、厚生労働省の認可のもとで行われる「医療行為」と定められています。しかし海外では一般のタトゥースタジオでもアートメイクを行っているので、使用している色素の質にばらつきがあります。なかには酸化鉄の含有量が高い色素を使っているところもあるかもしれないので、要注意です。
―患者様の中には「メディカルアートメイク、気になるけれど施術を受けるかどうかを簡単には決められない」という方も多いかと思いますが、カウンセリングだけでも受けられるのでしょうか?
もちろんです。当院はカウンセリングを無料でやっているので、悩んでいる方はぜひカウンセリングに来てほしいです。メディカルアートメイクをするかしないかをその場で決める必要は全くありません。
一度ここに来てもらって、施術者と直接会って。そしてカウンセリングでよく話を聞いて、それで1回自宅に帰り、「自分に本当に必要か?」「必要じゃないのか?」を考えてほしいです。そのうえで「やろう!」と思ったら、予約をしていただき、また来ていただいています。
場合によっては、施術者が「メディカルアートメイクをしない方が良い」という判断をして、施術をお断りをするケースもあるかもしれません。美容医療にはできること・できないことがありますので、その点をご了承いただけると嬉しいです。
―クリニックの選び方のアドバイスをお願いします。
メディカルアートメイクは、眉毛でもアイラインでも乳輪・乳頭でも、永久に色が入るわけではありません。時間とともにだんだん落ちていくので、1回で終わりではなく、1年~3年で色足しが必要です。ですから、ちゃんとアフターケアをしてくれるクリニックを選ぶことをおすすめします。
またメディカルアートメイクは、病気のアフターケアのためのものといっても、健康保険は適用されません。全額自己負担なので、クリニックによって費用が異なります。そして先ほどお話したようにメディカルアートメイクは1回で終わりではないので、費用面をきちんと把握しておくことも大事です。何年くらいしたらリタッチが必要か、そのときは同じところで施術できるのか、リタッチ料金はどうなっているのかなど前もって確認したほうがいいと思います。
―最後に、何かメッセージがあればお願いします。
メディカルアートメイクの話とは少し逸れてしまうのですが……。
がん検診の重要性をお伝えしたいです。決して脅すつもりはないのですが、メディカルアートメイクに携わっていると「こんなに若い子が……」というお客さまがいらっしゃることがあります。がんは細胞の突然変異なので、誰がなってもおかしくはありません。他人事とは思わずに、ぜひ定期的にがん検診に行ってください。
私はメディカルアートメイクのお仕事に27年以上携わってまいりました。メディカルアートメイクは女性にとってとても良いものだと思っていますが、美容医療には自己責任が伴います。まずは「自分に必要か?」「必要であれば、どこのクリニックが良いか?」「どのクリニックの考え方が自分に合っているか?」などをしっかりと調べ、ご自身で後悔の無い選択をしていただきたいと思っています。
編集:小嶋悠香
この記事の監修者
メディカルアートメイクトップアーティスト(看護師)。メディカルアートメイク暦27年、施術件数約8,000件の豊富な知識と経験を持ち、たくさんの患者様から信頼を得ている。カウンセリング→デザイン→施術→アフターフォローまで全てを担当。通常業務の傍ら、日本メディカルアートメイク協会の理事、事務局長として活動をしている。「だれでも美しい眉が手に入るメディカルアートメイク」(セルバ出版)著者
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